42番仏木寺へ向け、県道31号線に出た。そのときである。斜めうしろから「おはようございます。」と元気な声をかけられた。
私は少し振り返り、歩きへんろさんが見えたので、「あぁ、おはようございます。」と言って前を向こうとして、「、、えっ!、、??、、」と慌ててまたそのおへんろさんを見た。
私の隣には、ほぼ完璧な白装束のおへんろさんが歩いていた。そして思わず立ち止まり、
「ちょ、、、ちょっと、、、」
「ハイ?」
「き、、君、、?、、T君、、??」
「そうですよ。」
私が大きく目を見開いたその真ん前に、穏やかに微笑むT君が立っていた。
驚いた。開いた口がふさがらなかった。というのも、T君の格好があまりに完璧なおへんろさんスタイルだったからである。
特に手首には手甲、足首には脚絆、そして足元はナント地下足袋。それらがすべて白。もちろんズボンもへんろ用のものだろうか。とにかく上から下まで真っ白けだった。
確かにおへんろ本などには、巡礼用具としてそれらはよく紹介されている。しかしおへんろ本のイラストや写真などにあるような本格的スタイルで歩いているおへんろさんは、今まで見たことがなかった。
だいたいほとんどのおへんろさんが揃えるのは、金剛杖に菅笠、白衣、輪袈裟、頭陀袋までだろう。ズボンや靴は人それぞれに思い思いのものを履いていたりするものである。
T君の格好で、それが先達さんやけっこう年配なベテラン風の人なら、別に驚くようなことでもなかっただろう。だが、T君は至ってフツーの若者なのである。まぁ若者といっても20代後半ぐらい。30過ぎてるようには見えなかった。それでもじゅうぶん若い。とにかく年配のベテランさんでも、なかなかそこまではせぇへんやろみたいな格好を若者のT君がしていたのである。
手甲や脚絆も珍しかったが、なかでも私の目を一番引いたのは、地下足袋だった。これがT君のあのスーパー健脚を支えているのかと思うと興味津々である。
そして私が足元をマジマジと見て、
「しかしT君、地下足袋で歩いてんの?」
「あぁこれですか。これなんですけど、そういう靴なんです。」
そう言ってT君は右足を軽く上げ、裏側を見せてくれた。そこにはゴムソールが貼られていて、T君が履いているのは、いわゆる『地下足袋スニーカー』と言われるものらしかった。
「へぇ〜、こんな靴があるんかぁ、、、で、どうなん?履き心地は?」
「もちろんイイですよ。歩きやすいし、ホントに軽いんですよ。」
「ふ〜ん、それでバリバリ歩けるんかぁ。けど、あんまり汚れてないな。」
「これ、2足目なんですよ。」
「は?、、2足目、、?」
途中で買ったのか、事前にもう一足用意していたのか、そのへんはよく覚えていないのだが、とにかくT君はここまでに地下足袋スニーカーを一足履きつぶし、つい最近履き替えたとのことだった。
しかし履きつぶすほどとは・・・。もうヤレヤレと思いながら、改めてT君の姿を頭から足先までマジマジと見た。そして、
「しかしビックリしたなぁ、その格好は、、、。けど、背ぇは高いし、足長いし、おへんろさんのモデルになれるんちゃう?」
「そんなぁ、、、」といって照れ笑いするT君。
これは決してお世辞で言ったのではなかった。T君の顔は少々馬ヅラではあったのだが(T君、ごめん)、ホントにスタイルが良くて、よく見るとなかなかいい男だったのである(必死のフォロー)。
顔立ちは強いて言えば、麒麟という漫才師の、マイクに口を近づけて「麒麟です!」と魅惑のバリトンボイスを放つ彼のタイプだったろうか(かなりのフォロー)。
「でT君、今日はどこまで行くん?」
「内子に宿を取りました。」
「内子っ!、、」
昨日の宿から内子までとなると、その距離、実に50km以上。ヒェ〜!、、、。
あぁ、もう嫌だ。もう驚くのは嫌である。もう何回あきれて首をユラユラ横に振ったやら・・・。
「じゃ、仏木寺で・・・。」
そう言ってT君は先へ歩いていった。そのうしろ姿を追いながら私も歩き出す。
T君とはしばらくかけ連れもしてみたかったが、そんなことができる相手じゃないことはうしろから見ていてすぐにわかった。
とにかく歩くのが速いのだ。しかし足の回転がそれほど速いわけじゃない。なぜに速いのか。彼は背も高く、そして足も長い。そう、歩幅が広いのである。ほんの少し左足が内股気味で、そこが可愛いらしく見えたのだが、、、それにしても速い。T君の1歩が私の1.5歩ぐらいだろうか。
私がタラタラ歩いている間に、T君の姿は見えなくなった。そして約30分が過ぎた頃、前方に何人かのおへんろさんがウロウロしているのが見えた。どうやらあそこが仏木寺の門前のようである。
ヨシッ、そろそろ到着だなと思ったところへ、仏木寺の参拝を終えたであろうT君がさっそうと現れたのが見えた。
あ、T君〜!、、、と私が声をかけようとするが先に、門前にあった商店の女性がT君に声をかけ、お接待のみかんを手渡していた。頭を下げ、ありがたそうに受け取るT君。そしてそのままT君は、こちらを振り返ることなく、次の札所へ向けてまたさっそうと歩き出した。
(オイオイT君、「じゃ、仏木寺で」ってゆうたんちゃうんかい・・・)
門前まで来て立ち止まり、しばらくT君のうしろ姿を見送る。
(何をそんなに急いで行くのやら、、、。まぁでも君に会うことはもうないだろう。しかし君にはホント驚かされてばっかりだった。けど、イイ思い出ができたよ。ありがとう。気をつけて行きなよ、T君、、達者でナ、、。)
私のそんな思いが届いただろうか。しかしT君はその後一度も振り返ることなく、やがて私の視界から消えていったのだった。
2009年06月14日
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ところでTくんは、再会の話、軽く言ったのでしょうか? 待ちきれなかったのでしょうか?
全身白装束のおへんろさんは、私もこの後のおへんろ行のどこかで、そして山伏姿に近い人もどこかで見たような記憶はあります。
ただどちらもかなり年配で、いかにも修行僧って感じの人でしたから、特に驚きもしませんでした。
でも、T君はどこにでもいそうなまったくフツーの若者でしたしね、宿でもラフな姿の印象しかなかったので、ホ〜ントにビックリしたんですよ。そこまで変身するかぁ〜って感じでね。
T君の最後の言葉ですが、さてどうだったんでしょうか。真意はT君に聞いてみないとわかりませんなぁ。
ただ最後にちょっとでも振り向いて欲しかったですけどねぇ・・・。